少年の頃の夢を託し最高の舞台に立つ選手を支える

少年の頃の夢を託し最高の舞台に立つ選手を支える
プロキャディ 串田雅美さん

 市原市は2011年から『市原市ジュニアゴルフ教室』を開催している。毎年夏休みに3年生以上の小学生を対象にスナッグゴルフからはじまりゴルフ場のラウンドまでを体験するイベント。市と公益社団法人日本プロゴルフ協会の主催で、同協会の派遣するプロゴルファーらが指導する。「ゴルフ場の数が全国で一番多い市原市から沖縄や九州勢に負けないプロゴルファーが出てほしい。18ホールを4、5時間かけて回る間には会心のショットを打てる時も、痛恨の一打もある。追い込まれた時どのように攻めるのか。人生そのもののよう。礼儀、人格や生き方も磨かれる。子供からシニアまで楽しめるスポーツ」と日に焼けた笑顔で話すのはプロキャディ串田雅実さん(32)。現在、プロゴルファー谷原秀人さんと契約していて、世界各地のゴルフトーナメントに付き添っている。
 市原市牛久出身の串田さんはワールドカップ出場を夢見るサッカー少年だった。高校時代のポジションは状況を的確に把握し臨機応変に動くボランチ。試合中に大けがをし、選手としての限界を感じたが、スポーツ専門学校に入ってからもサッカー一筋。卒業後は「スポーツから離れたくない」とゴルフショップに就職した。関係者から誘われてプロゴルファーのキャディになったのは25歳の時。しかし、ゴルフ経験はほとんどなかった。「何も知らないので歩測やヤード数を間違えたり、ロッカールームで怒られることもよくあった」と失敗の連続。「いろいろ言われたけれど自分を信じ、人の5倍は頑張った。先輩キャディや外国人にも声をかけ、わからないことは何でも聞いた」と体当たり。
 仕事はコースマネージメントだけではない。試合中のフィールドでキャディは選手と二人きりだ。精神面でのサポートも重要になる。「逆境でも攻め続けるスポーツ精神はサッカーと同じ。相手の気持ちを想像しながら声をかける」。物を渡すタイミングから歩く速度まで気遣い、正念場で冷静さを求める場面もある。もともと前向きな性格。新人の頃はギャラリーを楽しませようと、地元プロ野球チームの帽子をかぶったり、静岡では清水次郎長の扮装をしてグリーンに出た。契約選手の試合がないときには女子やシニアゴルファーに付き添い、年間35試合ほど世界中を転戦する。時差や文化の違いを乗り越え、過酷な条件でも選手を支えなければならない。気温40度のミャンマーから気温3度の中国蘇州へ移動ということもあったそうだ。
「常に選手の二手、三手先を読んで行動している。いつ契約を打ち切られるかわからない不安定な仕事だが、一流のキャディはどんな職業に就いても一流になれるはず」と胸を張る。シーズンオフにはゴルフショップ『ゴルフパートナー』で働き、体力をつけるためゼットエー武道場(中央武道館)でトレーニングをしている。ジャンボ尾崎選手、賞金ランキング上位の平塚哲二選手などに帯同したこともあり、武藤俊憲選手優勝の瞬間にも立ち会った。「ギャラリーから声援を浴びる選手と同じフィールドに立てるのは最高。優勝した時の喜びは言葉にできない」と選手と同じ感動を共有する。多くのプロゴルファーとの出会いについて「一人ひとりの個性に合わせ、自分なりのやり方でサポートしてきた」と頼もしく語る。
 10月のブリヂストンオープンゴルフトーナメント2日前、会場の袖ヶ浦カンツリークラブは準備に追われるスタッフや報道関係者が忙しく行き交っていた。練習ラウンドを終えた選手たちはクラブハウス脇の練習場でも打ち込みに熱が入る。コーチからフォームのチェックを受けたり、カメラマンの要望に応えてポーズを取る選手もいた。「いつも明るいオーラを出して選手を盛り上げる」と話すポジティブな串田さん。その言葉通り、楽しげに談笑する谷原選手一団は練習場でもひと際目立つ。トレーナーや隣でクラブをふる藤本佳則選手も加わり会話が弾んでいた。串田さんについて練習中の谷原選手に聞くと、「筋肉でできたファニーボーイ」と少し冗談めかして答えた。「繊細だよ」とも。強面だが、細かい気遣いもできるということだろう。
 今秋、谷原選手はオーストラリアのメルボルンで行われるワールドカップに石川遼選手とともに参加する。もちろん「オリンピックや世界4大メジャー大会でも通用するプロキャディになりたい」と頂点を目指す串田さんも一緒だ。

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