岩塩で誰も表現したことのない世界を
- 2013/11/22
- 市原版
岩塩で誰も表現したことのない世界を
岩塩アート作家 日暮勇一さん
12月15日(日)まで、市原市朝生原にあるアートハウスあそうばらの谷では『ヒグラシユウイチ 記憶/Memory』展が開催されている。作家の日暮勇一さん(41)は、岩塩を使用した彫刻作品を制作している。「岩塩とは、地層や塩湖より産出される岩のような形状の食塩の結晶体。東京造形大学を卒業してからは石彫に取り組んでいたが、先輩は大勢いる。自身のレベルを上げても先輩方と差が縮まらないことがもどかしく、いっそ全く別の物を作り上げることに挑戦しようと思った」と日暮さんは彫刻に岩塩を使用したきっかけを話す。
「それまでは千葉県展に出したり、石と紙でアートを生み出そうと模索したが納得がいかない。石のような材質で紙のように光らせることができる岩塩に、ピンときた」という。岩塩は成分によってピンクや白、青と様々な色合いを持つ。素材は石と違って柔らかく壊れやすい。制作はカッターやデザインナイフ、彫刻刀で削ることが主だが、ほとんど一発勝負。
「最新作は銃シリーズで形を忠実に再現する緻密な作業。だが、抽象的な作品は原石そのものに寄り添い、イメージしながらの制作と同時進行になる」と日暮さん。そして、「私は常に悪戦苦闘。石と岩塩の作品の違いは本当にあるのか。岩塩でどう表現するのかと悩み続けている。個展を開いたら会場に海の音を流してみたり、作品を海水に浸してみたりと工夫してみる。銃は元々好きなので作品に取り入れたが、岩塩は溶けるもの、溶けることをマイナスに捉えがちだがプラスに考えてみる。ならば、この世でいっそ溶けてなくなればいいものを作ってみよう。そんな意味を込めて銃を作ったというのもあるかもしれない」と続け、思慮深げに作品を見つめた。
ライトに照らされて輝く銃、銃弾、手榴弾は本物かと見まがうほどの細かさで削られ、思わず目を見張ってしまう。対照的に、和室に飾られた炎をイメージしたというピンクの岩塩は、数十個のブロックでつなぎ合わされている。暗闇にぼんやりと浮かび上がるように当たりを照らし、見ているだけで癒される気分に。岩塩の制作に取り組んでから7年が過ぎる。原石の大きさも掌サイズから50センチを超えるものまで様々なものを扱ってきた。
日暮さんは「今後は銃シリーズを増やしていきたい。また、岩塩を個展にセットする前のアクリルを使って映像作品も作ってみたい。アートハウスあそうばらの谷は養老川のほとりに佇む築150年の古民家で行っているので、普通の美術画廊ではできないような展示の仕方。囲炉裏に作品を置き民家と融合させていてとても面白い。これを機会に、岩塩を含めてさらに挑戦できることを探していきたい」と語った。