言葉はいらなかった

言葉はいらなかった
遠山あき

 私の家の田んぼにインドの男女が五人、通訳の女性のひとに連れられてやって来た。「来年のアート・ミックスの行事に使う藁が欲しい」と貰いに来たのだ。どうせ刻んで田へ入れる藁だから、快く承諾した。
 黒く輝く肌の男性二人、濃い茶色の肌の小柄な女性三人が、はにかんだように笑って挨拶した。刈った稲藁は田に広げて置いたからよく乾いている。見ていると誠に器用に手早く束ねる。私たちの束ね方とは違う。珍しい。束ね方を知りたいと思った。「教えて」と傍へ行って頼んだ。もちろん日本語だ。私の顔を見て彼女は首を捻った。手まねで束ねる形をした。頷いた彼女はゆっくりとやって見せてくれた。
 うーん。分からないと言って首を振ると、彼女は困ったように首を捻った。藁束を指して「もう一度」というとたちまち納得! 私の手を取って丁寧に教えてくれた。彼女の手は温かく乾いていた。知りたい私に教えてくれようとする気持ちがじーんと伝わってくる。飲み込みの悪い私に繰り返し教えてくれる。子供にかえったように私はインドの女性の仕草を真似た。二度、三度、どうやらできそうだ。
「自分で」と言って私はやってみた。できた! 彼女は手を叩いて嬉しそうに笑った。彼女の手を握って私もぴょんぴょん跳ねた。並んで束ね始めた。後ろ向きに束ねて進んだので、とうとう彼女とお尻の鉢合わせをしてしまった。「あっ」と言って私は彼女の背中を叩いて笑った。彼女も手を叩いて笑った。二人の気持ちがその時一つになった。
 夕方になって皆帰ることになった。私はカメラを取りに走った。皆と一緒にパチリ、彼女と並んでパチリ。名前も知らない、会話もできなかった、でもなんだか長い間の友達のような気がして、私はふと涙ぐんだ。急いでカメラを入れていた袋を取りだした。手作りで花模様が刺繍してあり綺麗で私のお気に入りだった。これを記念にあげようと思う。
 彼女の手に押し付けると、いぶかしげに私の顔を見た。「あげます、お礼に」とお辞儀すると目を丸くして「ほんと?」というように首をかしげた。手を握るとポッと赤くなって嬉しそうに袋を胸に当てて微笑んだ。二人に言葉は要らなかった。

関連記事

今週の地域情報紙シティライフ


今週のシティライフ掲載記事

  1.  コロナ禍で中止していた観音寺(鴨川市)の『ひなまつり』が3年ぶりに開催される。慶応元年(1865年)、現在の鴨川市に生まれ日本のためにと自…
  2. 【写真】(前列左から)会長・後藤さん、講師・片岡さん、     (後列左から)会員の常盤さん、後藤さん、市原さん、中村さん …
  3. 【写真】工房の庭にて。小原さん(左)、齊藤さん  睦沢町下之郷に2人の陶芸家が住んでいる。『夢楽工房』を共同で主宰する齊藤…
  4.  寒い冬の真っ只中、皆さんはどうお過ごしでしょうか?家にこもりがちで、外に出ない方も多いかもしれません。こんな時こそ、ウインタースポーツとし…
  5.  秋晴れのなかの11月6日、茂原公園の広場をスタートに『第19回千葉県ウォークラリー大会茂原会場』が開催された。毎年開かれているこの大会も、…
  6.  ツグミという野鳥をご存じの方も多いだろう。体長23~25㎝、白い眉斑で、頭から背面は黒褐色。羽が茶褐色で、胸から腹にかけてはうろこ状の黒い…
  7.  小湊鐵道光風台駅から、西方に歩いて15分程にある鶴峯八幡宮。鎌倉時代・建治3年(1277)に本宮大分県の宇佐八幡宮より御分霊を戴き、お祀り…
  8.  昨年も、『こでまりの夢』をお読みいただきありがとうございました。昨年は17年間のコラムをまとめ、出版することが出来ました。これもひとえに、…
  9. シティライフ編集室では、公式Instagramを開設しています。 千葉県内、市原、茂原、東金、長生、夷隅等、中房総エリアを中心に長年地域に…

ピックアップ記事

  1.  コロナ禍で中止していた観音寺(鴨川市)の『ひなまつり』が3年ぶりに開催される。慶応元年(1865年)、現在の鴨川市に生まれ日本のためにと自…

スタッフブログ

ページ上部へ戻る