房総の山々と大山千枚田

~健脚者向けハイキング

 5月21日、戸田コミュニティセンター主催のイベント『鴨川の大山千枚田と二ツ山を歩く』が行われ、健脚な45名の参加者が往復12キロのハイキングコースを楽しんだ。講師は鋸南町在住、『千葉県山岳史研究会』会員の川﨑勝丸さん。あらゆる道を知り尽くしており、房総の山を歩かせたら右に出る者はいない。
 バスで同センターを出発し平塚区民センターで下車。裏手の上り坂から元気よくハイキングスタート。「Aコース」と書かれた緑の道標を目印に進んでいく。少し歩くと早くも棚田が並んでいるが、この辺りの田は人の手が入っていないものもあり大山千枚田には含まれないようだ。のどかな田園風景を楽しみながら緩くカーブした脇道を上っていく。前夜の雷雨とは打って変わっての晴天。足元にはムラサキツメクサやヒメジョオンなどの野花が風にそよぎ、青空には山々の新緑が映える。不動明王を祀る高蔵神社一の鳥居を過ぎ、山間に続く棚田を見下ろしながらしばらく歩くと「大山千枚田」の道標が。ほどなく、嶺岡の山並みの麓で階段状に連なった美しい棚田の風景が目に飛び込んできた。面積約4ヘクタール、大小375枚の田んぼ。日本で唯一、雨水のみで耕作を行っている天水田で多種類の生物が生息する。自然の地形を生かした人間の営みに感服させられる。秋には、刈り獲ったあとの黄色い稲穂と周囲の山々の紅葉が相まって、また違った景色を見ることができるそうだ。
 トイレ休憩も兼ねて、高台にある地域資源総合管理施設『棚田倶楽部』で一休み。デッキからの展望も素晴らしい。景色が開けるたびに姿を現わす周囲の山々について説明をする川﨑さん。ここからは、自衛隊の防空レーダードームがある千葉県最高峰の嶺岡愛宕山(408m)、嶺岡大塚山、馬の背、乳頭山、遠くには尖った三角形の清澄山を拝むことができた。 
 さて、目指すは県内4番目に高いとされている376mの二ツ山。北峰と南峰に分かれていることが名前の由来だといわれる。舗装された山道をさらに上ると左手には津森山が見えた。上り坂が続き、息が上がってくる。杖を頼りにしながら黙々と足を踏み出す人、おしゃべりをする余裕さえある人と様々だが、弱音を吐く人は1人もいない。
 出羽三山信仰の記念碑や馬の供養塔である馬頭観音などの石碑が随所に見られる。さっと通れば気づかずに過ぎてしまうほど小さく、草木に埋もれてしまっているものも多い。南北朝時代から文献に登場する山中の集落、大田代の辺りの小さな馬頭観音の横に古ぼけた石碑がある。「野を横に/馬牽むけよ/ほととぎす」という芭蕉の句が刻まれている。
 ようやく二ツ山の道標を見つけた。鴨川市と南房総市のちょうど境目に当たるところを鴨川市方面へ。ここから見える遠くの山並みは鹿野山。昔、製鉄の王といわれた豪族、阿久留王が君臨していたがヤマトタケルによって征伐されたという伝説がある。
 舗装された上り坂を歩くのを終え、左手にある道標「二ツ山入り口」から、濡れた落ち葉が敷き詰められた、ふかふかの山道を上がっていく。足と膝に心地いい。登り切ると180度に山々が見渡せる絶好の眺望。富山、伊予ヶ岳、鋸山、津森山、鹿野山、海に浮かぶ城ヶ島などの姿を堪能した。樹木の間をさわやかな風が吹き抜け、これまでの疲れを一気に吹き飛ばす。小鳥のさえずりを聞きながら昼食。ここ、南峰の頂上には「名主善右衛門君遺功碑」と刻まれた古碑が立っている。江戸末期、山の入会権の争論解決に功があったことを示したものだそう。
 帰りは、川﨑さんの「整備された道ではなく、房総独特の自然のままの道を知ってほしい」との思いから、来た道と反対側にある獣道を下ることに。傾斜のきつい道を樹木に手をかけながら滑らないように気をつけながら下りていく。倒木の下をくぐり抜けたりしながら暗い藪の中を歩くのは、探検ごっこみたいでワクワクするが単独で通るにはなかなか勇気のいるルートだ。「こわい!」と言いながらも楽しそうな表情の皆さん。舗装された道へ出ると「明るみに出てホッとしたわ」との声も。
 再び周辺の山々の展望を楽しみながら、棚田の脇の道を、バスが待つ『棚田倶楽部』まで下り帰途に着いた。多くの参加者が「樹木の緑が一番美しい季節。景色がきれいだった」と笑顔で述べた。
 名勝地を訪れるとともに樹木の中に佇む古碑から歴史を学び、未だ整地されきっていない房総山歩きの醍醐味も味わうことができた。房総の魅力を満喫できるハイキングコースだ。

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