少年時代の大空への憧れを持ち続けて

五井公民館前館長 三浦 文雄 さん

 「機体の躍動感を出すのが楽しい」と航空機の写真を嬉しそうに見せるのは三浦文雄さん。「シャッター速度を遅くして背景をぼかす、流し撮りという手法で機体そのものが浮き上がるように撮影します」。
 今年3月、五井公民館を退職してからは、天気が良ければ旅客機を撮影するため成田や羽田空港へとでかける。世界中の飛行機の現在地や機種がわかるスマホアプリ『フライトレーダー24』をチェックし、航空機の無線を受信するエアバンドで情報を得て、風向きによって変わる飛行機の離着陸方向に合わせ、絶好の撮影ポイントを狙う。1日中機影を追いかけ、多い時は千枚以上撮る。成田でよく行くのは成田市さくらの山、三里塚さくらの丘、ひこうきの丘、十余三東雲の丘など。もし、数多くの飛行機を見たいなら「午前中の第1ターミナルの展望デッキがお勧め」だそうだ。
 横浜市出身。鉄道や天文にも興味があり、空を見上げるのが好きな子どもだった。川崎大師へ初詣に行った帰りに、写真が趣味の父親に連れられて羽田空港に出かけるのがお正月の年中行事。近くには米軍の厚木や横田基地があり、空にはいつも軍用機が飛んでいた。「いつの間にか機体のデザイン、機種の入れ替わりを追いかけるのに夢中になりました」。叔父の営む模型店をラジコン目当ての航空関係者がよく訪れており、叔父からパイロットの仕事などについてもいろいろ教えてもらった。
 初めて写真を撮ったのは小学校2年生のとき。モノクロの写真を示し、「ダグラスDC4です。父親のカメラを借りました」と当時のワクワク感を思い出したように語る。終戦後、連合国軍最高司令官マッカーサーが厚木基地に来るとき使った軍用機の民間型だそうだ。当時、飛行機は誰もが気軽に乗れる乗り物ではなかった。「はじめて飛行機に乗ったのは大人になって友人の結婚式のため長崎に行ったときでした」
 一番印象に残っているのは40代のときに撮影した「全席ファーストクラスという豪華なMGMグランドエアーDC8」。かつてアメリカの映画配給会社による航空会社が所有していた飛行機でハリウッドスターや裕福層がよく利用していたという。尾翼にはライオンのマークがついている。「フィリピンに行くため、給油地の沖縄に寄る予定だったが、燃料不足で成田に到着するという情報をエアバンドで得て撮影しました」。その後、「フランク・シナトラがチャーターした飛行機だと知りました」と顔をほころばせる。
 好きな機種は1950年代のロッキード・コンステレーション。プロペラ機で垂直尾翼が3つある。「今は飛んでいないのですよ。スマートでしょ」。全日空機のボーイング787のスターウォーズシリーズのR2D2、C3POなどのキャラクターをイメージしたデザインの機体ほか、「撮っていない機種の方が少ないと思います」と資料を示し、快活に笑う。
 高校では陸上部に所属し、体育大学へ進学。その間も競技のシーズンオフには空港に出かけていた。その後、市原市で教師となった。勤務したのは、市東中学校、辰巳台中学校、東海中学校、戸田小学校、三和中学校、市や県の教育委員会。「子どもたちが、鉄棒できるようになったよ、試合に勝ったよと言ってきます。その達成感を一緒に味わえることが体育教師の醍醐味でした。在職中は息抜きにカメラを持って出かけました」
 定年退職後は五井公民館の館長に就任。公民館の職員によると「おやじギャクを飛ばし、ファンも多かったです」という。かつての顧問だったバレー部の教え子も館を利用し、ときどき顔を出してくれていた。4年前に公民館の文化祭で、空いたスペースに航空写真展示をしたら好評で、講演会も開いた。「アイドルグループが機体に描いてあるジェット機トリプルセブンの写真を欲しいと言ってくる中学生もいました」
 今はかつて撮ったフィルム写真を整理し、撮影へ出かける悠々自適の生活だが、気持ちは少年時代と変わらない。「3キロのカメラが持てる間は続けたい」と機影を追い、スローシャッターでも手ぶれしないように、腕立て伏せ、スクワットなど体力づくりに勤しんでいる。
 10月24日(火)から29日(日)、千葉県立美術館にて教職関係者の発表の場である千葉県教育芸術祭に出品予定。

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