自閉症の人が、安心して暮らせる社会を目指して

 自閉症とは、文字通りの「自分の殻に閉じこもっている人」ではなく先天的な脳の機能障がい。言葉の発達に遅れが生じる場合もあり、人と関わることを苦手とする人が多いが、感覚が鈍かったり逆に鋭かったりと症状は人によって様々だ。6月9日、姉崎保健福祉センターで市原市自閉症協会30周年記念講演会『自閉症とその支援~いま、これから~』が行われ、福祉・行政関係者、自閉症の子を持つ家族や一般の来場者など約90名が熱心に耳を傾けた。
 講師は千葉県自閉症協会会長の大屋滋さん。旭中央病院脳神経外科部長でもあり、自らも2人の自閉症の子どもを持つ父親だ。2歳を過ぎても言葉が出ず、洗濯機の水流ばかり見つめていた長男。特別支援学校高等部を卒業する頃には見送りなしでもバスに乗ったり、買い物もできるようになった。「不安を抱えていらっしゃる方も多いと思いますが、成人すればこんなふうに前進する可能性がある」と我が子の成長をスライドで紹介しながら講義を進めた。
 障がいのある人が安心して暮らすために必要なものは「福祉サービスの充実と差別や虐待から守るための権利擁護、そして社会が自閉症を正しく認知・理解することにより生まれるバリアフリーと合理的配慮」だと大屋さんは説く。合理的配慮というのは、話しかけても返事をしないのは自閉症であり、気持ちを伝える方法がわからないから、不可解な行動も何か意味があるのだと周りが納得、理解すること。
 施設や家庭内における虐待事件があとを絶たない背景もあり、平成24年に障がい者虐待防止法が施行された。虐待に気づいた場合には通報することが義務づけられている。権利擁護のための仕組みは増えつつあるが、自閉症の人に親しみを持つ支援者を増やし、地域での見守りを徹底することが大切だ。
 さらに、自閉症の人の意思や希望を最大限尊重しながら暮らしを支えるために自己実現理論について考えてみた。趣味、特技など本人の好きなことを見つける、社会で価値のある人として認められる、家族や仲間など居心地のいい場所がある、安心できる環境、満足のいく衣食住が確保されている。これらを自閉症の人が満たすためには、一人ひとりの特性を周りが見極め、個々に応じた支援が必要だといえる。例えば、行動の見通しがつくと安心だと感じる人にはわかりやすいスケジュール表、買い物に行く際には写真を見せて行きたい店を聞き、意思決定を得る、一人だけで作業ができる静かなスペースを用意するなど。
 社会における自閉症の認知度はまだまだ低い。いじめの対象になったり、不審者と間違われたりするケースもある。「ひとりでも多くの人が寛容さと合理的配慮を持つことでバリアフリーな社会が実現できれば」と大屋さん。
 自閉症の疑いがあると診断された3歳の子どもを持つ母親は「先輩方の話が聞けてよかった。孤独じゃないとわかって安心した」と話した。

問合せ 市原市自閉症協会
TEL 0436・62・6239

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