世代交代を繰り返し 北上するトンボ!! ウスバキトンボ

 開放的な湿地や水田の上、群れをなしてほぼ休みなく、比較的速い速度で飛翔する薄いオレンジ色のトンボがいる。アカトンボの仲間、ウスバキトンボである。後羽の基部が薄いオレンジ色であることから、「薄羽黄」が名前の由来であるとされる。日本全国で見られ、世界的にも広く分布する。
 特徴は、著しく早い成長と移動力、繁殖力であろう。成虫は夏から秋にかけて見られるが、他の多くのトンボ同様、冬前に死滅する。越冬するヤゴ(トンボ幼虫)だが、ウスバキトンボのヤゴは、文献によると、水温が7度以上でないと生息できないとされる。すなわち、本州では冬を越せない。では、どのように分布を広げているのであろうか?
 台湾や先島諸島といった冬でも比較的暖かい地域で羽化した一部が、気温の上昇とともに北へ飛来する。一気に長距離を移動するのではなく、交尾、産卵、羽化と何度も世代交代をしながらの移動である。文献によると、産卵から羽化まで30日前後、羽化後1週間ほどで交尾、すなわち約1カ月半で世代を繰り返す。その結果、お盆以降はおびただしい数となり、本州のあちこちで群飛する姿が見られる。しかし前述したように寒さに弱く、12月になると幼虫も含めピタッといなくなる。これまでの調査で、南方に戻るという行動は確認されていないようである。正に、北方への片道切符である。
 ウスバキトンボは、古くから日本人に親しまれ、お盆以降、多く群れ飛ぶ姿が見られることから、信心深い昔の人は「精霊(ショウリョウ)トンボ」や「ホトケトンボ」と呼び、「ご先祖様の霊がトンボに乗って里帰りされた」と大切に迎え、採ったりいじめたりすることを戒めてきたと言われる。生き物を大切に慈しみながら自然と共生してきた日本人独特の感性を、大切に継承していきたいものである。

(ナチュラリストネット/岡嘉弘)

関連記事

今週の地域情報紙シティライフ

今週のシティライフ掲載記事

  1. 【写真】第1展示室  人々の暮らしを様々な面で支えている人工衛星。ロケットで打ち上げられた人工衛星は地球の周回軌道に投入さ…
  2. 【写真】教室の講師と子どもたち  JR浜野駅前と五井駅前でダンススタジオを経営する堀切徳彦さんは、ダンス仲間にはNALUの…
  3.  市原市不入の市原湖畔美術館にて、企画展『レイクサイドスペシフィック!─夏休みの美術館観察』が7月20日(土)に開幕する。同館は1995年竣…
  4. 【写真】長沼結子さん(中央)と信啓さん(右) 『ちょうなん西小カフェ』は、長生郡長南町の100年以上続いた小学校の廃校をリ…
  5.  沢沿いを歩いていたら、枯れ木にイヌセンボンタケがびっしりと出ていました。傘の大きさは1センチほどの小さなキノコです。イヌと名の付くものは人…
  6. 『道の駅グリーンファーム館山』は、館山市が掲げる地域振興策『食のまちづくり』の拠点施設として今年2月にオープン。温暖な気候と豊かな自然に恵…
  7.  睦沢町在住の風景写真家・清野彰さん写真展『自然の彩り&アートの世界』が、7月16日(火)~31日(水)、つるまい美術館(市原市鶴舞)にて開…
  8.  子育て中の悩みは尽きないものですが、漠然と考えている悩みでも、種類別にしてみると頭の整理ができて、少し楽になるかもしれません。まずは、悩み…
  9. シティライフ編集室では、公式Instagramを開設しています。 千葉県内、市原、茂原、東金、長生、夷隅等、中房総エリアを中心に長年地域に…

ピックアップ記事

  1. 【写真】第1展示室  人々の暮らしを様々な面で支えている人工衛星。ロケットで打ち上げられた人工衛星は地球の周回軌道に投入さ…

スタッフブログ

ページ上部へ戻る