房総往来 飛び切りのアジ

山里 吾郎

彼岸の中日、父母が眠る故郷の墓を訪ねた。関東を襲った記録的な豪雨から一転、シルバーウイークは汗ばむほどの好天。日ごろの無沙汰を詫びながら手を合わせた帰途、鋸山の隧道を抜け、内湾沿いを富津方面へ。海をこよなく愛した両親を偲ぶ想いもあった▼魚の干物、サザエなどの貝類…。晩酌用に定番の海の幸を購入したあと、「ここらへんなら黄金アジか。最近、テレビや雑誌で盛んに紹介されている食堂が…」。時計はいつの間にか昼を回り腹も空いてきた▼目当ての店はすぐに見つかった。だが、狭い店先を取り囲むように二重三重の人の列が遠目からでもはっきり見える。「これじゃ日が暮れちまうな」。やむなく最近評判の店はあきらめ、そのまま竹岡方面へ向かった▼もう一軒、久しぶりに行きたい店がある。国道沿い左手の竹岡漁港の前。近づくと黄色の旗に「黄金アジ」の文字。「確か発祥はこっちだったはずだ」。昔の記憶を頼りに『さすけ』から『マルゴ』に乗り換えた▼こちらも駐車場は満杯。ただ店が広い分、30分ほどで店内へ。早速、アジフライと刺身を注文、飛び切りの味(アジ)を堪能した▼鰯と並んで青魚の代表格でもある鯵の名は、もともと味の良さから付いたとも言われる。なかでも近海に棲むマアジは回遊魚だが、根に居ついて大型に成長したものを特別な名前、ここでは"黄金アジ"と呼ぶ。脂が乗り身はぷっくり。食通もうなるおいしさだ▼ちなみに近くにはヒカリモの群生地で、国の天然記念物に指定されている「黄金(こがね)井戸」がある。この発見が飛び切りのアジ名にも由来したのかもしれない。

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