農村から生まれた命の賛歌

可愛らしくも奇怪なモノたち

 市原湖畔美術館で『暮らしのなかの造形―中国・民間芸術のかたちと祈り』が開かれている(7月3日(日)まで)。日本初公開の展示品は、中国の市井の人々が魔除けや子孫繁栄の祈りを込め、ザクロやハスの実、トラやトカゲなどさまざまな生き物の刺繍を施した布の玩具や吊るし飾り、切り絵など。北京の炎黄(いぇんふぁん)芸術館の民間芸術コレクションのうちの300点あまり。
 暮らしのなかで生まれた民衆の芸術といえる同コレクションを収集したのは中国・中央美術学院の元教授、馮真(ふぉんじぇん)さん(85)。「民間芸術は地上の実在の動物から伝説上の生き物までをキャストにした生命想像曲というタイトルの壮大なミュージカル」と解説に記し、オープニングイベントで「はじめは可愛らしくも奇怪な物たちに興味を持ち、その後研究するようになった」と語った。
 集めたのは1980年代以降の中国黄河流域の農村。広大な黄土が続く、厳しい自然環境のなかでたくましく生きる人々が、新年、誕生、婚姻など人生の節目に願いを込め、受け継いできたものだ。館内に入るとまず、色の鮮やかさと造形の美しさに目を奪われる。さらに近づいて見ると、細かく丁寧に縫った刺繍に作り手の思いが伝わってくる。子どもの身代わりとなる人形や悪夢を追い払う枕、花嫁が姑に贈る針山や帯飾り、夫や息子のために作る靴の中敷きや煙草入れなどから、中国の習俗も知ることができる。残念なことに、現地ではもうほとんど見ることができないという。
 芸術家でもある馮真さんの民間芸術のモチーフをテーマとした作品も興味深い。ひな鳥は生存の叫び、花と蝶は恋愛、種は生命の循環と命のシンボルをデザイン化してある。別室には皮影(ぴーいん)という影絵で遊べる家や、窓に剪紙(せんし)という切り絵を貼った実物大の民家の再現スペースもある。
 来場者のなかには「中国文化や民芸品に興味があり、あちこちの展覧会に足を運んでいるが、これだけの規模の展示ははじめて」と嬉しそうに見る世田谷区在住の女性や「どうやって切るのかな」と繊細な切り絵に関心を持つ男性がいた。世界的に活躍する建築家ユニット『アトリエ・ワン』による洗練された展示空間もゆっくりと味わいたい。
 余談だが、北京から来日した馮真さんを連れ市内を案内した美術館ボランティアの金澤祐一さんによると「馮真さんは好奇心旺盛。市原の里山風景の美しさにとても感激していた」そうだ。
 開館時間 平日10~17時 土・祝前日9時30分~19時 日曜9時30分~18時
 休館日 月曜(祝日の場合は翌平日) 入館料一般600円、大高生・65歳以上500円、中学生以下・障がい者手帳をお持ちの方無料。毎週末開かれる裁縫、切り絵、水墨画のワークショップ予定はHPで確認のこと。

問合せ 市原湖畔美術館
TEL 0436・98・1525

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