日本人と共に生きてきた秋田犬の血筋を絶やすべからず

齋藤 晃 さん

 市原市五井在住の齋藤晃さん(54)は自営業を営む傍ら、天然記念物公益社団法人秋田犬保存会の審査部副部長を務め、日本国内に留まらず海外でも秋田犬のドッグショーの審査員やセミナーの講師として講演を行っている。「昭和40年代から、秋田犬がブームだったのです。昭和50年、私が中学1年の春、祖母にねだって買って貰ったのが始まりで、近所でドッグショーに出している方が居たので学生ながら連れて行ってもらいました」と話す齋藤さんは、現在も自宅で6頭の秋田犬と暮らしている。生まれたばかりの子犬を眺める顔は、わが子を見守るような優しい眼差しに溢れていた。
 昭和6年に国の天然記念物として指定された秋田犬は大型で、毛色は赤、白、虎、胡麻など豊富。三角の立ち耳にきりっとした目の顔つきはとても凛々しく、飼い主に忠実な性格は家庭犬として優れ、愛犬家の心をわし掴みにする。3月上旬に市原市玉前緑地公園で開催された同会主催の『千葉県支部展覧会』には、そんな愛犬家たちが県内だけでなく群馬や長野からも参加。42頭の秋田犬が配色や毛並み、顔立ちや体つきの審査を受けた。「人間と同様で秋田犬も雄と雌が外見的にも中性的になってきていたりもします。かつて東北で狩猟犬として飼われていた秋田犬は体格ががっしりとして威風堂々とした佇まいがあり、この様な展覧会で秋田犬のスタンダードを示し、古来より続く姿かたちが絶滅しないよう警鐘を鳴らすことが必要だと思います」と熱く語る齋藤さん。
 今までに飼った秋田犬は数十頭以上。寝床を汚さない秋田犬は朝と晩に運動に連れ出し、また食事の管理は大切な事で、集中力や瞬発力を鍛えさせる様なトレーニングを欠かせない。加えて、飼い主に忠実な秋田犬は、決して自分を曲げないのも特徴だとか。「ボールを投げて1回は取ってきても2回目はない。媚を売らないんですね。でも、いざとなったら真っ先に主人を助けてくれる。古い言葉で言う侍魂と言うか、武士道の志、そんな性質が日本人の気質とマッチして、ここまで血筋が途絶えなかったのでしょう」と笑うが、まさにその一見地味だが威厳があり、愛情と優しい心を持つ秋田犬に夢中なのは、今や日本人よりも外国人なのだという。
 2009年に公開されたリチャード・ギア主演のハリウッド映画『ハチ』で、海外では日本犬のブームが到来。イタリアなど、一カ国だけでも昨年の出産頭数は日本国内の登録を上回る数があった。「日本人のイメージと同じで、決して華美ではないけれど、味わいや仕草にきらりと光るものを感じるようです。日本人古来の文化が出て、他の犬にはない部分に彼らは虜になる」とは、実際に海外諸国で秋田犬についての講演を行ってきたからこそ言えることだろう。
 20代半ばで文部大臣賞や日本一のタイトルを受賞した齋藤さんは、支部がある台湾を皮切りに秋田犬の正しい姿や気質を伝える為、昭和44年に支部設立したロサンゼルス支部、イタリアやフランスなどのヨーロッパ各国、他多くの国で審査普及活動を行っている。「セミナーのために同じ国でもはるか遠くから数日かけて参加してくれる人もいるんです。ただ、日本の感覚や侘び寂びを説明するのが難しい様に、通訳に秋田犬の審査内容を説明してもらうのは大変です」と、間接的な苦労もある。審査では、雄が強そうに見え、雌は麗しさを表し善し悪しはない。少々弱い、という表現をイエスとノーでは語れないのだ。そして、ただ可愛いと思うだけでは決して秋田犬を守れない。
 秋田犬の素晴らしさと日本人の志を伝えるという意志の強さを持つ齋藤さんは、「外国だけでなく日本でも絶やさぬよう、秋田犬を広めていくことが使命だと思っています。近年の住宅事情で都内ではマンションでも飼っている方はいます。犬をきっかけに道端でも会話が生まれ、人の繋がりが出来る事もありますよ」と最後に笑顔を見せた。

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