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時をかける中年
- 2017/8/4
- 市原版, シティライフ掲載記事
文と絵 山口高弘
夏空が窓に広がっています。蝉の鳴き声は、ガラス越しでも騒がしい。僕は実家の自室の床に座っていました。部屋を改装することになり、大幅に片付けが必要になったのです。いてて…腰が痛い。重い段ボール、無理に運ぶんじゃなかった。
箱を開けると古い紙の匂いがしました。懐かしい!中学校や高校のプリントやテストです。読み返すと、僕たち生徒が理解しやすいように先生が工夫して下さっていたのが伝わってくる。レイアウトとか手書きのふき出しとか…当時は気づけなかった。ありがとうございます、自然と呟きました。
答案用紙も出てきました。変な間違いしてる。たぶん寝てたんだな。良いように記憶を書き換えていたけれど、二十年前、中学生の自分もやっぱりナマケモノだ。
問題用紙には落書きまでありました。細面にクールな目鼻…イチロー選手の似顔絵でした。けれど髪はド派手に突っ立っていて、下にこう書いてありました。『スーパーサイヤ人イチロー』。テスト中に何をやっているんだ俺は!勝手にキャラクターをくっつけて。そして先生、ごめんなさい。
でも考えてみればすごい話です。二十年経った今でもイチロー選手は現役のままで、今の中学生でも名前を知っている。本当に地球人じゃないのかも?なんて。
夜になって、今日はもう止めようかという頃、ノートの切れ端を見つけました。受験生の自分が、自分にハッパをかけた言葉でした。
『過ちて改めざる、これを過ちという(論語)』
冷や汗が出ました。今まで忘れていたなんて。とんだ過ちだ。十五歳の自分にぴしゃりと頬をはたかれて、時計を見ると深夜の0時。明日が、今日になりました。
☆山口高弘 1981年市原生まれ。
小学4年秋~1年半、毎週、千葉日報紙上で父の随筆イラストを担当し、本紙では97年3月~イラストを連載。