【睦沢町】すべての魂と歴史を映し出した絵

 

 睦沢町立歴史民俗資料館で2月17日(日)まで開催されている特別展『鈴木重男 心の絵』。展示された37点の絵は、自分自身の生涯や地域の暮らしの様子、寺社や祭り、戦争体験など幅広い内容。絵具や顔料を使って描かれた絵は色鮮やかであるもののどこか素朴な仕上がりで、時代背景やその時々を説明するように添えられた言葉が鑑賞者の心を揺さぶる。同館の久野一郎さんは、「当館で所蔵する鈴木さんの絵は千点以上。晩年になって絵を描き始め、2016年2月に92歳で亡くなるまでに大変多くの作品を残されました。絵を描かれる時の集中力は物凄く、10点ほどを2週間で描きあげるスピード。感性が若く記憶力に優れていた彼が、亡くなる当日に描いていた未完の作品も今回展示しています」と話す。
 夷隅郡瑞沢村(現在の睦沢町)で生まれた鈴木さんは、学校卒業後は東京に出て親戚の製糖工場で働いた。19歳の時に戦争で中国に出兵し、終戦後に一時捕虜となったものの、帰国後は農業や炭焼きで生計を立てながら家族を養った。全ての絵に込められただろう鈴木さんの『心』。病床の妻の為に描いた『房総カントリーの桜』は明るく色鮮やか。駆け回る子ども達の表情や桜の花からは春の暖かさや風さえも感じられそうだ。
 一方、戦争を描いた『岩木山麓にて重機関銃の訓練』では野にひれ伏して構え、機関銃を手にする人々。特に『夜間行軍する騎兵部隊』は夜間を表現するために色彩がなく、雰囲気がおどろおどろしい。そびえたつ山からは足を滑らせれば谷底に落ち、敵襲から身をひそめる恐怖が伝わる。「よほど心に残っていたのでしょう。戦争体験は描いても、描いても気が済まないと生前に仰っていました。驚くのは睦沢町の風景を描いた『昭和10年頃の瑞沢尋常高等小学校付近の略図』や戦争時代の絵の中の武器、『お正月のお餅つき』の風景など、どれもが的確に正しいものを表現されています。鈴木さんの絵は記憶であり、記録なんです」と、同館の山口文さんは語る。

 家族と楽しんだ『節分』や『妙楽寺ぜんぜんご』踊りなど明るい題材を描きながらも、戦後に日本で見られた『パンパンガール』など決して忘れてはいけない歴史も、目を逸らすことなく描き残した。「鈴木さんは描くことで胸の内を吐き出し、魂がどんどん澄んで純粋になっていった気がします。90歳を超えても少年のような方でした」と、久野さん。そして山口さんも、「来場者の中には涙ぐむ方もいて多くの反響をいただいています。鑑賞される時間が皆さん長いことも嬉しいです」と続けた。親しみやすくどこか懐かしい絵を見に行ってはいかが。
 休館日は月曜のみ。開館時間は午前9時から16時半まで。入館料は無料。詳細は問合せを。

問合せ 睦沢町歴史民俗資料館
TEL 0475・44・0290

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