以前にもこのコラムのなかで書いたことがあると思いますが、14世紀のヨーロッパでは、人口の約3分の1が生命を奪われた黒死病(ペスト)の大流行がありました。16世紀にも再び感染が広がり、さらに多くの人々が命を失います。
 そんななか、フランスのある地方で4人の泥棒が捕まりました。持ち主が感染し居なくなった家々の中から、金品を盗んでいたのです。泥棒たちは死罪を言い渡されますが、「なぜ感染を免れたか、その秘密を教えれば釈放してやってもいい」と言う交換条件を持ちかけられました。泥棒たちは、ローズマリー、セイジ、シナモン、ミントなどのハーブとニンニク、樟脳を漬け込んだ酢を身体中に塗って、犯行に及んでいたことを告白しました。この酢は後に改良が加えられ、『4 thieves vinegar』として、飲料、虫刺され、うがい薬として現在でも世界中の人々に愛用されています。
 現代でもコロナウイルスが猛威を振るっています。ワクチン接種率もだいぶ上がってきましたが、未知のワクチンであるため、あるいは持病などの何かの事情のため、接種をとまどっている方も多くいらっしゃるのではないかと思います。ワクチンがかなり出回ってきたとはいえ、今後、さらに新たな変異種が次から次へと出現して来ない保証はありません。「自分の身は自分自身で守る」という16世紀の教訓から、私たちは学ばなくてはならないことがあるのではないでしょうか。
 幸運なことに、現代の私たちには科学的な情報が豊富にあります。どのようにすれば感染の確率を減らせるか、万が一感染してしまった場合、自己の持つ免疫力によっていかに重症化を防ぐか、などです。ウイルスは眼、鼻、口腔などの粘膜から侵入して来ます。スポーツに例えるなら、いくら感染力の強い菌が現れても、粘膜というゴールまで到達しなければ得点(感染)には結びつきません。もしマスクを付けていたとしても、呼吸が苦しくなければ何処かに隙間が生じており、効果が半減してしまいます。少し息苦しいと感じて初めて外の空気と遮断され、その効果が発揮されます。また、ほとんどの方が、無意識に手で顔を何回も触っている、という実験報告があります。感染の多くは手指から来ているのでこまめに手を洗い、顔をなるべく触らない習慣をつけなければなりません。
 それから最後に菌の入口である粘膜。歯周病や歯肉炎のある粘膜は、炎症によって腫れや出血、排膿のためにウイルスが何の障害もなく自由に行き来できる状態になってしまっています。本来粘膜はムチンという粘液質の物質で保護され、菌の侵入を防ぐ役割を補っています。歯磨きによってしっかりと粘膜を鍛えることは、菌の体内への侵入を抑える上でとても重要なことといえるでしょう。

長谷川良二。長柄町在住。ハーブコーディネーター、ガーデニングコーディネーター、歯科医師。市原を中心に公民館でのハーブの指導などをしながら自然栽培で野菜を育て、養鶏、養蜂にもトライ中。

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