著書「家康とドン・ロドリゴ」 文学同人誌『槇』連載「家康最後の大勝負」 胸躍る大航海時代 日本と世界のつながりを大胆にひもとく 岸本(下尾) 静江 さん【市原市】

 1609年10月1日、御宿町岩和田にスペインの大型帆船が漂着した。時は西欧諸国が大海を渡り、多くの新天地を求め発展した大航海時代。日本では徳川幕府が樹立した江戸時代初期にあたる。天下統一を成し遂げた徳川家康は、当時の列強国であるスペインやイギリスなどとどうやって渡り合ったのか。歴史小説『家康とドン・ロドリゴ』(2019年11月23日・冨山房インターナショナル出版)は、御宿町に命からがら上陸したスペイン系メキシコ貴族、マニラ臨時総督ドン・ロドリゴの視点から、当時のスペインと日本の関わりを描き出し、その続編『慶長14年家康決断の時』『家康最後の大勝負』(文学同人誌『槇』にて連載中)では、東アジアを取り込もうとする西欧列強諸国と対峙する家康の外交政策を、キリスト教布教と海外貿易を絡め紡いでいる。ともに特徴的なテーマ、史実に基づいた仮説の物語が各方面から好評の作品だ。市原市在住の著者、岸本(下尾)静江さん(70代)に、その制作上の話をうかがった。

スペイン語が結んだ縁

 岸本さんは陶芸家であるご主人・岸本恭一さんと、市原市鶴舞に暮らす。翻訳、小説、エッセーなど著書も多数で、昨年市原市が表彰式を行った『更級日記千年紀文学賞』では、作家・椎名誠さん他とともに選考委員を務めた。じつは弊紙シティライフでも、1990年から3年間、エッセイ『メキシコ見たまま暮らしたまま』を連載していただいたことがある。  今回、『家康とドン・ロドリゴ』を岸本さんが執筆したのは、岸本さんが学生時代以降、スペイン語と関わりをもってきたことが元にあるという。「大学時代はスペイン語専攻、メキシコ文学が卒論でした。在学中に日本人の海外渡航が自由化されたので、同じ大学の女子3人で船でロサンゼルスへ行き、半年間かけてスペイン語圏の中南米を南下、チリまで旅をしたんですよ。その時に現地で購入した置物などは、今でも自宅のリビングに飾っています」と朗らかに話す。卒業後はNHK国際局や時事通信社でスペイン語の海外放送のアナウンサーやニュース翻訳を担当し、高校の世界史教師だったご主人と結婚。「ところが主人は、世界史から世界各国の文化に興味をもって、中国の陶芸・青磁へ傾倒して陶芸家になるんです」  岸本さんが再び中南米・メキシコへ行くことになったのは、ご主人がJICA(国際協力事業団)から、陶芸の専門家として『トルーカ陶磁器学校』設立の依頼をされたことによる。「メキシコはスペイン語が公用語。私が通訳できることも依頼の理由のひとつだったでしょうし、夫が引受けたのも私がいたからですね」。当時、御宿町はロドリゴの漂着が縁で、メキシコ有数の観光地・アカプルコとすでに姉妹都市になっていた。そのときの御宿町長からアカプルコ市長宛のプレゼントも預かるなど、期せずして岸本さんは御宿町とも関わりを持つようになったそうだ。

史実から着想した物語

 2年間家族でメキシコに滞在し、帰国した岸本さんは、自分の時間が持てるようになると、市原や千葉県内の歴史にも目を向けた。「そのときに惹かれたのが、ドン・ロドリゴ。彼について詳しく知るならスペイン語の文献が必須です。メキシコに滞在し、スペインの文献も調べられて、しかも千葉県在住で御宿のロドリゴゆかりの史跡に何度も行っている私は、彼に強い縁があると感じ、これは私が本格的に調べないと、と思いました」  資料を見るうち、岸本さんは「ロドリゴの御宿町漂着はただの偶然ではない」と考えるようになったという。「御宿に来た船は、本当はマニラ発メキシコ行き。メキシコへは風向きと潮流の関係で5月下旬から6月初旬に出航しなければならないのに、ロドリゴは台風シーズンで難破する可能性が非常に高い7月下旬に出ています。しかも、日本人の通訳まで同乗。メキシコに帰るなら、日本語通訳は必要ないはずですよね」。日本で家康と会い、メキシコと日本の関係を強固にしつつ本国スペインの利になるよう、また日本渡航という夢を実現させるため、わざと日本漂着を画策したのではないか。大胆な仮説は、日本に憧れたひとりのメキシコ貴族の半生の物語となり、彼が日本を離れるところで終わった。 「家康は貿易を推奨していましたが、結局は鎖国へと舵を切る。ドン・ロドリゴを始めとするヨーロッパ諸国の人々との交流で、家康がどのように模索し変わっていったのか、書いているのが続編です。歴史は大きな流れ。色々な視点で見られるから面白いですし、調べたことによって違う物語にもなる。この本を出版したことで、久能山東照宮など、色々な方と新しく繋がりができたのも嬉しかったですね」と岸本さんは笑顔で語った。

 

・書籍『家康とドン・ロドリゴ』税込3300円  ・文学同人誌『槇』44号まで発刊・各1050円  問合せ:岸本さん Tel.0436・88・3537

 

●本プレゼント! 『家康とドン・ロドリゴ』、文学同人誌『槇』44号を、各1名に。ハガキ、FAX、メールで、シティライフ本プレゼント係まで。2/18〆切。 宛先:〒290-0056 市原市五井4874-1  Fax.0436-21-9142 mail:kiji@cl-shop.com 

 

 

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