自慢のチームワークで白球を追う~千葉聾学校野球部の夏~【千葉市】

 8月、新型コロナウィルス禍を経て3年ぶりに第71回関東聾(ろう)学校野球大会が開催された。県立千葉聾学校野球部は優勝を目標に掲げるも、埼玉県立大宮ろう学園(今大会準優勝)との初戦で4対2と惜敗。「悔しいですが、今までやったことはすべて出しきったベストゲームでした」との藤田正樹監督(高等部教諭)の言葉通り、選手たちは心をひとつに最後まで戦い抜いた。

頼れるチームメイト

 県立千葉聾学校(千葉市緑区)は、聴覚障害による聴こえにくさのある幼児・児童・生徒が通う学校で、幼稚部・小学部・中学部・高等部の一貫教育が行われている。学区は千葉県全域で寄宿舎も完備。0才からの乳幼児教育相談と、高等部卒業後2年制の専攻科(理容科)を併設している。

 軟式の同校野球部は1960年創部。8月現在で高校生11名、中学生6名が在籍し、練習では共に汗を流す。選手たちは中学で野球を始め、基本的な動作やルールを覚えていく。全員が補聴器や人工内耳をつけプレーをし、藤田監督は手話と大きな声と身振り・手振りで全身を使い指導をする。野球ではランナーの有無や打球の球筋などにより、状況を瞬時に判断しなければならない場面が多い。とっさの判断を言葉では伝えにくいため、1つのボールを追って野手同士が交錯しないよう、守備範囲が隣り合った選手同士で細かい打ち合わせを積み重ねる。「ボールが来る前にどれだけ準備できるかが勝負。こう来たらこうする、という引き出しを増やすことが大事」と藤田監督。そのために守備や走塁の練習では「もう1回もう1回、できるまで、他の人を見て覚えるー」と、根気強く選手がのみ込むまで繰り返す。「だまっていたら上手にならない。試合中はタイムをとってでも話そう」と徹底する。「手話だから静かですが、話していることを音に変えたら大音量になるくらいコミュニケーションをとっていますよ」と監督は話す。

「今年のチームはよくまとまっている」と顧問は口をそろえる。チームを引っ張っているのは、キャプテンでキャッチャーの大内黎(れい)選手(高3)と副キャプテンでピッチャーの丹野弘釈(ひろとき)選手(高3)だ。顧問やチームメイトからの信頼が厚く、打撃やバッテリーとしてプレーへの期待も大きい。もう1人の高校3年、永田優一郎選手はライトを守る。練習では監督のサポートを務めることも。小坂真司、小林隆太、太田龍人、時田晃希、熊倉塁の5選手は高校2年。高校1年は長田陽斗、黒下来偉夢、馬場航世の3選手。中学生の平野亜冴飛(あさひ)、大塚雄太、山中彪太郎、友田悠翔、廣部風馬、栗山蓮の6選手は全員3年生だ。高校生は自分の課題と向き合い、中学生は基礎から学んだプレーに自信を持ち始め、それぞれ更なるステップアップを狙っている。

応援されるチーム

 藤田監督は市原市出身。東海大学付属市原望洋高校野球部では主将を務め、教師を志し東海大学体育学部へ進んだ。自身が高校生の時に甲子園を目指していた藤田監督が初めて千葉聾野球部の野球を目にした時、ゼロから築き上げなくてはならない状態に「正直なところ驚きが大きかった」という。しかし、「一緒に野球をするうちにすっかり価値観が変わった。みんな素直でいい子ばかり。ボールをあんなによけていたのに今日はとれた。野球ってこういうおもしろさがあると気付かせてくれた」と、当時を振り返る。今年度の野球部顧問は、藤田監督、野口武部長(中学部教諭)をはじめ合計14名。幼稚部、小学部、寄宿部の教諭も含まれる。「小さい頃から知っている子どもがこんなに大きくなった、こんなこともできるようになった」と、一貫校ならではの目線で見守り、サポートする。部活動の安全面で2名以上の顧問の参加が規定されているが、休日の練習には6、7名の顧問がユニフォーム姿で選手同様グラウンドを駆け回る。また、卒業後社会人野球を続ける選手も多く、大会前の壮行試合の対戦相手を務めるなど多くの卒業生がグラウンドを訪れる。

(左から)藤田監督、キャプテン大内選手、
副キャプテン丹野選手

 7月の全国高校軟式野球選手権千葉大会で同部は、拓殖大学紅陵高校との初戦で18対0のコールド負けを喫した。スタンドでは保護者、顧問、選手のクラス担任など、多くの関係者が途切れない声援を送った。中学生も参加できる関東聾学校野球大会では、中学生もポジション争いに名乗りを上げる。高校3年にとっては最後の大会。「このチームで1日でも長く野球がしたい」「自分が活躍してチームを優勝に導きたい」「自分の限界を越えたい」と、チームは一丸となっていた。残念ながら勝利をつかむことはできなかったが、同じ目標に向かい共に励んだ日々は選手たちの心の中に大切にしまわれた。

 新チームでは、高校生は筑波大学附属聴覚特別支援学校との連合チームとして秋季千葉県高等学校軟式野球大会での勝利を、中学生は都立立川学園との連合チームとして関東聾学校中学部野球大会での優勝を目指し、始動する。千葉聾野球部の挑戦はこれからも続いていく。

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