千葉の郷土食『房総太巻き寿司』を伝えたい~いちはら食育の会代表・管理栄養士 上田 悦子 さん~【市原市】

【写真】千葉県調理師体会・第32回料理コンクール「千葉県栄養士会長賞」受賞作

 

 料理教室『ヘルシークッキング』を平成15年から開いている管理栄養士の上田悦子さん。平成19年に『いちはら食育の会』を仲間とともに設立し、千葉の郷土食『房総太巻き寿司』の普及活動をしてきた。一昨年にはルーツを調べて日本栄養改善学会で発表し、さらに冊子『千葉県の郷土料理・太巻き寿司の歴史』を作って、市原市教育委員会にも寄贈。多くの人に太巻き寿司に興味を持って欲しいとイベントに参加、販売もしている。JR五井駅前のビルにある教室で、話をうかがった。

作って楽しい、食べて美味しい

上田さん

 様々な絵柄が楽しい房総太巻き寿司は、平成19年に農林水産省の『日本の郷土料理百選』に選ばれている。昭和30年代から50年代、江戸時代から海苔養殖を行っていた内房の市町村で、家で行う冠婚葬祭や地域の行事によく作られていた。同時期、千葉県各地や全国的にも広まり、新作の柄も次々に増えていったという。

「私が太巻き寿司を作るようになったのは、千葉県栄養士会の役員をした平成5年位から。千葉県内で、太巻き寿司を教えている龍﨑英子先生に習い、私もあちこちで講習などを行いました。私は市原市五井生まれですが、父は浅草、母は深川生まれ。戦争の疎開で市原に来て、祖父は五井で食堂を開き、父が受け継いで給食会社を経営していたので、太巻き寿司は頂いたりして、よく食べていたんです。実際に作り始めると、柄を作り出す楽しさ、様々な食材で食べられる美味しさ、地元の食材で作れること、栄養の良さなど、色々な魅力にはまりました」と上田さん。

 しかし平成に入ると、自宅で冠婚葬祭が行われなくなり、作り手も高齢化、教える教室も減った。千葉の郷土料理・太巻き寿司を知らない地域の若い世代も増えているという。「私の料理教室では、月3回、房総太巻き寿司教室がありますが、県内では船橋や松戸、市川の方などもいます。県外から通ってきたり、日本語講師をしている外国の方、親子で来る方もいます。食材を置いて巻く作業はお子さんもチャレンジできて、切って柄がちゃんとできていると、皆さんとても喜んでくれます。甘めのお寿司は幅広い年代に楽しんでもらえますし、お米・酢・海苔を使っていて、体にも良い料理なんですよ」と話す。

ルーツを調べて

市原市市制50周年記念誌に作った作品

 上田さんは『いちはら食育の会』で、市内の公民館やイベントなど、メンバーとともに太巻き寿司の講師をしたり、販売をしてきた。市原市市制50周年記念誌(平成25年)には、お祝いの太巻き寿司を作って掲載され、平成30年には、女子ソフトボール世界選手権で来日した、ニュージーランドチームに太巻き寿司を提供。令和元年の千葉県調理師会主催・料理コンクールでは、太巻き寿司2作品が、千葉県調理師会理事長賞と千葉県栄養士会長賞をそれぞれ受賞。それらの活動の中で、食文化として紹介するときに、もっと詳しいルーツを知りたいと思うようになったのだという。「本格的に調べ始めたのは、コロナ禍で活動の機会が減った頃から。詳しい方に聞いたり、博物館などで古文書や資料を見せていただいたりして、1年がかりでまとめ、一昨年の学会で発表しました」

 江戸時代後半、江戸で海苔仲買人をしていた近江屋甚兵衛は、海苔の養殖をしようと房総にやってくる。浦安から東京湾沿岸で探すが、多くの場所で断られた。ようやく君津市人見で協力者を見つけ、1822年に「上総のり」が誕生する。江戸でもこの海苔は人気となり、海苔養殖は富津、木更津、袖ケ浦と広がって、明治には市原でも開始。海岸が埋め立てられる昭和30年代まで、栄え続いた。一方、同じく江戸時代後期、寿司は江戸で酢を使うものが主流になり、その頃に発刊された随筆『守貞謾稿(もりさだまんこう)』には、にぎりや玉子巻、海苔巻など、当時の寿司が紹介されている。袖ケ浦市の代官所の家では、1827年の娘の結婚式に『はなすし』が作られたと古文書が残り、1833年の葬式の記録には、病気見舞いに『のりずし』をもらったと書かれているという。上田さんは「当時の海苔は高級品。地元の海苔を使って特別な日に海苔巻を作り、渡す風習が始まったのだと思います」と話す。

小湊鐵道の五井駅ホームでも販売した人気のトンボ、列車、コスモス

 大正から昭和初めには、海苔の生産量が増え、細巻きを組合せて柄を作った『三色巻』『二つ巴(ふたつどもえ)』などの太巻き『伝承ずし』が一般家庭でも作られるようになる。その後も『チューリップ』『サザエ』『二つの花』など、食紅で染めたカンピョウを具材にした太巻き寿司が作られた。そして昭和40年頃、君津市生まれの水野衣音(いね)さんが、新しい柄を創作し始める。「各家庭で伝えられていた太巻き寿司の技は、知ることが難しかったようです。水野さんは新しい柄なら皆で作れると、花や動物、昔話、ひな祭りやこどもの日の節句に合わせ、幅広く考案。県内各地で教えました。房総太巻き寿司を広めた先駆者ですね。当時の結婚式や七五三、お葬式に作られた太巻き寿司は、袖ケ浦市郷土博物館にレプリカがあり、見られます」。

 上田さんも創作柄を発表している。一番人気は、令和2年、市原市の『ふるさと名物応援宣言』を受け、小湊鐵道をモチーフにした列車の柄。その年の小湊鐵道のイベントや、翌年の房総里山芸術祭・いちはらアートミックス、昨年末には市原市内の五井大市など、年数回、イベント参加し販売したが、特に子どもたちが喜んでくれたという。「房総太巻き寿司は、平面に細巻きや具材を重ね、丸めたときに柄になるよう作るので、慣れるには時間がかかります。ですが、具や味、柄も自分で工夫し、形にできる楽しい料理です。今後も多くの方に親しまれ、作り手を増やせるよう、講習会などできる限り行っていこうと思います」と、上田さんは笑顔でしめくくった。

 

問合せ:上田悦子さん
Tel.0436・21・8599
https://www.healthy-cooking.jp

 

●『千葉県の郷土料理・太巻き寿司の歴史』を10名にプレゼント

いちはら食育の会代表・房総太巻き寿司を伝える会メンバーの上田悦子さんがまとめたA5版・フルカラーの冊子。応募はハガキ、FAX、メールにて、〒・住所・氏名・電話番号・コメントなどを明記し、シティライフ・招待券係まで。1/10(火)必着。

宛先:〒290-0056 市原市五井4874-1

fax.0436-21-9142

メール :kiji@cl-shop.com

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