自然体の自分で歌い続けていきたい

シンガーソングライター 網野 まこと さん

 都会の夕日が沈む寂しさを歌ったオリジナル曲『センチメンタル』を包み込むように歌い上げる。切なさが心に染みる傑作だ。いすみ市在住の網野まことさん(61)が、フォークからロックまで数々のバンドを結成、解散を繰り返しながら音楽活動を続けて45年になる。バックミュージシャンとしてのマンドリン演奏から始まり、現在はギターとボーカル、作詞作曲を手がけている。網野さんのもう一つの顔は油圧機器の設計やメンテナンスなどのサポート業務を行うエンジニア。要望があれば日本全国からアメリカ、ブラジルなどの海外にまで出向く。自称「シンガーソングエンジニア」。多忙な合間を縫い、東京都、千葉県、沖縄県内や鹿児島県奄美大島のレストラン、ライブハウスなどで『網野まことバンド』とソロを中心に活動を行っている。
 音楽好きの姉の影響で、小学生の頃からジャズ、ロック、フォークなどジャンルを問わず何でも聴いていた。ビートルズや吉田拓郎がスタートだったが、「夜中のラジオ番組で流れていたマイナーなフォークソングが好きだった」と振り返る。
 モテたい、注目を集めたいとの理由から、高校時代に何となく集まったメンバーで『飛行機雲』というフォークソングバンドを結成したのが始まり。だが、周りに気を遣い過ぎる性格。自分から他人に声を掛けてメンバーを集めたりなどできなかった。仕事と家庭を持ちながら、社会人アマチュアバンドを継続させることは難しい。プロを目指さなかったのも「家庭を守っていけるのか?」という現実的な疑問があったから。がむしゃらに夢を追い求めたりはしない。「それぞれ守るべき生活があると思うと、気軽に声をかけられない」謙虚な姿勢と温厚な性格、抜群の歌唱力により周りから声が掛かり、腕のある仲間が自然と集まるようになった。
 エンジニアという職についてからは、常に先のことばかりを考えてしまう癖がある。歌詞も身体で覚えるのではなく図面として頭で記憶している。ライブなどでの段取りはいいのだが、先のことを考えるあまり歌に集中できないこともあるのだとか。「ライブの前は『ライブブルー』になってしまうくらい」と話す。「完璧主義なのかな」と首をかしげるが、細部まで気がつく几帳面な性格が、完成度の高い楽曲を生み出しているのかもしれない。
「自由になりたい。ではその自由とは何か?」など常に様々なことを考えている。生き方に悩んだ時に音楽が生まれる。メロディーと歌詞は同時に頭に浮かぶ。心の内を音楽にすることは思考の過程でもあり、答えなき迷いからの解放にもなり得る。そんな網野さんの生み出す音楽は、自らの体験や心の中を、気負わず、自然体で表現したもの。内に秘めた思いを歌にするが、熱さを前面に出すことはしない。じっくりと聞いているうちにおのずと伝わってくる。穏やかな熱唱、それが彼の音楽だ。ギターとパーカッションが心地よいサウンドを奏でる『網野まことバンド』。ジャンルは、「お洒落なフォークかな」と笑う。
 音楽活動を始めた初期の頃、友人に誘われて子ども向けの『モモちゃんバンド』を組み、親のいない子ども達が家族のように暮らす児童養護施設を慰問したことがある。演奏終了後、お礼にと自分のカレーを半分差し出してきた子どもがいた。「自分はなんて幸せすぎるのだろう、そう考えると心がいたたまれなくなり、慰問を続けることができなくなった」と涙ぐむ。「とても繊細な人。だから曲に深みが出るのです」と10年来、音響スタッフとして網野さんを支えてきたスタジオオーナーの小野寺美夏さん。
 6月21日に茂原ショッピングプラザアスモ内のASMO劇場で、昔のバンドの復活出演も含めた『感謝還暦ライブ』を行った。「60年という歴史に一区切りつけたくて。現在の自分があるのはメンバーやスタジオスタッフの皆さんのおかげ。そして歌を聞いてくれる人がいる限り、自然体の音楽を続けていきたい」ライブでは感謝の気持ちを熱く穏やかにぶつけた。
 音楽をしている自分は「変身です。音楽がなければ60歳のただのオヤジ。人前で演奏することで格好いい自分をキープできているのだと思う」。8月16日に御宿のサーファー向けのペンションで18時から『網野まことバンド』ライブの予定。詳細は問い合わせを。

問網野さん 

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