たった一つの選択肢が、今の自分を作り上げてくれた

ソプラノ歌手 安藤多恵さん

 東金市在住のソプラノ歌手である安藤多恵さん(30)が家族と共に関西から千葉に移り住んで、もうすぐ2年が経とうとしている。8月中旬、東金市の『道の駅、みのりの郷』で開催されたライブで、マイクを通して伝わる安藤さんの青空に突き抜けるような歌声が大きく響き渡っていた。「私が歌うのは自分のためではなく、時に涙を流して喜んで聴いてくれる方がいるからです。歌はピアノの鍵盤のようにはっきりと見て間違いが分かるものではなく、感覚で発するものです。今も、日々練習です」と話す安藤さんは、プッチーニの『私のお父さん』や『オペラ座の怪人』、『千の風になって』などを次々と披露。会場に吹き込む強い風も、彼女が巻き起こしているようにさえ感じる迫力あるステージだった。
 都内で生まれた安藤さんは近畿大学附属高校へ進学したが、卒業後の進路としてニュージーランドにある姉妹校への留学を決断した。「英語が好きだったんです。日本の英文科へ進むのなら、いっそ本場へ、と。向こうの高校へ1年いて、その後オーストラリアの大学へ通ったので計5年海外にいました」
 高い声で歌うように話す安藤さんが、音楽を始めたきっかけは大学の進学理由としてだった。幼少時代からピアノやバレエに励み、音楽に関連する素質は備わっていた。オペラやミュージカルなど舞台芸術に興味があったこともあり、大学卒業に必要な選択科目で声楽科を選んだのは、今の安藤さんを形作るための運命だったのだろうか。
 「海外に行けば、日本で通じた得意教科は英語という訳にはいきません。むしろ1年目は文化や土地、言葉の違いなど分からないことだらけで大変でした。どうやって毎日を乗り切るか、とばかり考えていましたね」と笑うが、それでも声楽での進学を決めた安藤さんに、留学に関して背中を大きく押してくれた両親も「とっても驚いていた!」とか。
 高校を卒業して1年間、個人の講師をつけてレッスンの日々。歌を習ったことなどなく基礎からの練習だ。腹式呼吸で身体の内側の筋肉を鍛え、肺を広げて肩甲骨(けんこうこつ)を下げ、喉を閉めないなど色んな部分に意識を集中させなければならない。落ち込んだ時はブロードウェイミュージカルの曲を聴いては感動し、活力にした。「ゼリーみたいに柔らかいのに伸縮のある声でないとダメだ」という講師の教えを感覚で身につける。
 そして、ヴィクトリア大学音楽科へ入学後、マッセ―大学総合音楽部声楽科を経てグリフィス大学クイーンズランド音楽院声楽科を卒業した。高校在学時には音楽専攻の優秀な生徒に贈られる校長賞を受賞、大学時にはドイツ語と英語、イタリア語の3つの歌曲をうたう首都で開かれるコンクールに出場し合計点で最高得点者となった。
 「日本に戻ってからは、関西の私立高校附属の英語学校で講師を務めました。英検1級やTOEIC900点以上を取得し、歌は封印したんです」という安藤さん。しかし、転機は突然訪れた。父親の赴任に伴い東金市へ移住が決まり、職場でお別れ会が開かれた。「そこで歌うと、同僚が涙を流し、口々に『あなたは歌うべきだ!』と言ってくれたんです」
 引っ越し後、外房を中心に活動するヨーデル歌手の渡辺正男さんを知人から紹介され、道の駅オライ蓮沼やサンライズ九十九里で一緒に披露すると、安藤さんの評判は瞬く間に広まった。「彼女の魅力は純粋な所。張りのある声はもちろん、ファンからは妖精だ、お人形みたいだと人気があるんですよ」と大絶賛する渡辺さん。声が潰れるくらい練習し、母国語ではない歌を講師にテープへ録音してもらって耳で覚えたあの頃。今でも音域は広がっており、1年前とは自身で分かるほど歌声は変わっているのだとか。海外に出たことで、日本との違いも学んだ。だからこそ、「今は私、日本が大好きです。みんなが心をひとつにして喜びあい、感謝しつつ、その想いを歌に込めながら、幸せや楽しさを伝えていきたいです」と笑顔の安藤さん。

問合せ 渡辺さん
TEL 090-8742-4992

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