竹林の誘い  山里 吾郎

 今年で4年目になるだろうか。「何もない贅沢」を満喫しようと、7月最後の週末は決まって大多喜町の竹林の中で過ごす▼午後6時の集合時間に合わせ夕暮れの山道をゆっくりと走る。目印の看板を見逃さないためだ。やがて道路際に「童子(わらべ)」の文字。「これで何とか目的地へ着けそうだ」。そんな安堵感も束の間、実はここからが最後の難所だ▼車一台がやっとの細い道、言われなくても慎重運転になる。両側にうっそうとした竹林が広がり、やがて手掘りの薄暗いトンネルを抜ける。視界が開けると無数の花をつけたヤマユリが「いらっしゃい」とばかりにおじぎをしながら出迎えてくれる。看板の終着地は竹林の中、変わらぬ風情でひっそりとたたずむ▼仲間の多くはすでに到着していた。暑い土曜日だったがここにクーラーはない。樹間を抜ける涼風だけが頼り。もちろん携帯は圏外、完全に喧騒とは無縁の別天地だ▼宴が始まる。囲炉裏の炭が真っ赤におこされ合鴨のつくねを合図にホタテ、アワビ、アユ、エビなどの豪華な魚介。さらにトウモロコシ、ピーマン、サツマイモなどの夏野菜、そして牛肉と炉端焼きの王道が続く▼ビールでノドを湿した後は炭火で温めた竹筒の熱燗をいただく。もちろん暑い。だが、うちわで涼をとる囲炉裏の面々からは自然と笑みがこぼれる。「これ以上の贅沢はない」とばかりに…▼翌日のゴルフも忘れて宴は続き、ほろ酔いのまま就寝。網戸から吹き抜ける風は心地よくまさに天然のクーラー。蝉と小鳥の声で目覚めた翌朝、苑内散策で笹の合間をゆらゆら舞うハグロトンボに出会った。

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