海が運ぶ春 山里 吾郎

 房総の春は海が運んでくる。冬の間、波頭を飛び散らせていた西風がおさまり早春の兆しに覆われ始めると、海原にはゆるやかな時が流れ出す。待望の海の季節の幕開けを実感しようと3月後半、館山道を一路、南下した▼週末、ちょっと遅いスタートだったが昼食時には最初の目的地「富楽里とみやま」に。ここは高速道から直接乗り入れ可能なハイウェイオアシスで、岩井漁協直送の海産物が人気▼30分ほどの行列を我慢して海鮮丼に舌鼓を打ったあと地下の売店へ。お目当ては春の海が運んできた旬の生ワカメ。「オオバ(大葉)はきのうで終わり。これからはササ(笹)の方がうまいよ」。店員さんの熱心な口上にうなずきながら、今朝水揚げされたばかりの茶褐色のワカメを買い込んだ▼房州とりわけ富浦周辺では、ワカメをオオバとササの2種類に呼び分ける。オオバは別名ヒロメと言われ、文字通り大きな広い葉が特徴。逆にササは笹の葉のように先端が細く幾重にも分かれている。ちなみに一般的なワカメはササワカメのことを言う▼「ここまで来たならもう1カ所」。富楽里から館山道(富津館山道)をそのまま南下、終点の富浦インターから道の駅「枇杷倶楽部」へ。ここで再び海産物をのぞくとササに混じってオオバも。もちろん目的のワカメを買い増したうえ美味そうに干されたカタクチイワシの目刺しも購入した▼夕餉の食卓。熱湯にくぐらせ新緑に変色したワカメを刻み、ネギを加えた酢味噌和え、定番の味噌汁、そしてさっと炙った目刺し。もちろん晩酌も大いに進んだ。

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