イチマルでキミだけのアート体験

 「湖畔の水と緑とはかけ離れた色を使い、結界のような区切られた空間を作りました」と語ったのは市原マルシェ(イチマル)の制作者の豊福亮さん。旧里見小学校の『美術室』の作品でもお馴染みの船橋市在住の現代美術作家だ。
 市原湖畔美術館の野外に出現した作品は、解体された家などから集めたトタンや窓枠に塗料を塗り、再構築したカラフルな建物群。人一人しか通れない狭い入口を抜けるとロールプレイングゲームの世界を思わせる、武器屋、装飾屋、道具屋などの小屋が並ぶ。そこは「湖の底に沈んだ村が千日に一度、姿を現す」という設定の不思議な場所。芸術祭期間中は連日、モノ作りの楽しさを知るアーティストによるワークショップや作品販売があり、お祭りのような賑やかさだった。
 豊福さんのワークショップは魔法陣や魔法の杖を作る『魔法開発』。取材日には小学5年生の男の子が、石や枝を拾って棒に括り付け、魔法の言葉を唱えると素敵なことがおこる魔法の杖を作っていた。会期後半には「プラスチックや手芸材料など異素材を組み合わせ、自分だけの惑星を作る」新たなワークショップ『サザエ星』もスタートした。
 木工彫刻家岩崎龍次さんの講座は、インテリアとしても飾れるカワセミやダイシャクシギ型の『木工鳥笛』作り。「アートミックスを楽しみにしていた」という松戸市から訪れた夫婦が岩崎さんの指導のもとハト型の笛を作っていた。
 『木製ハンドメイドルアー』作りは、東京芸大彫刻科卒で、釣りが趣味という男性が手ほどき。茂原や船橋から来た父子らが白木のルアーに絵の具を塗り、「ヒラマサを釣るにはイワシ風の色がいいかな」と相談しながら制作。「これでカジキ釣りたいね」と父親に言われると小学生の男の子は頷いていた。
 漫画家ももなり嵩さんが描いたのは髪型と衣装が時代劇風の似顔絵。浦安在住の親子3人は「わあ、似ている」と喜び、木更津から来た30代の女性二人はそれぞれ日本風と中国風の姿にご満悦。日本画家の満尾洋之さんによる笠お化けや豆腐小僧の妖怪風ほか、大きな瞳が特徴の少女漫画風や猫顔の似顔絵もあり、20代の女性4人はそれぞれ好みの絵姿を描いてもらい、見比べて嬉しそうにしていた。なかには作家が凝りすぎて完成せず、後日送付した作品もあったそうだ。
 親子3代の家族連れ7人は中学1年の男の子がフェイスペインティングと革細工、幼稚園年長の女の子がガラス絵にチャレンジにした。待っていた祖父の男性は、「あと2駅で達成」と小湊鉄道の駅を巡るスタンプラリーの台紙を自慢げに見せてくれた。
 他にもコスプレ写真館や鋳金の磨き体験、陶芸体験などと盛りだくさん。イチマルでのアート体験は来場者一人ひとりに特別な作品を残し終了した。

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