『蔵の中のワンダーランド』への誘い

~明治・大正・昭和30年代へタイムスリップ

 12月3日(日)まで、田園の美術館(いすみ市郷土資料館)にて企画展『蔵の中のワンダーランド』が開催されている。茂原市の幕末に建てられた旧家の蔵にしまわれていた明治期から昭和30年代にかけての、どこかノスタルジーを感じるものと、それに関連する同館所蔵の文化財を展示している。
 学芸員の伊藤睦美さんは「今春、開催した展示会で掛け軸をお借りしたことをきっかけに、蔵を見せていただいたところ、懐かしさを感じたり心惹かれるものが色々あり、是非、展示紹介したいと考え、今回の展示に至りました。蔵の梁には嘉永三年(1850)の棟札が取り付けられてありました」と話す。
 会場は蔵の主、千葉順一さんと彼の祖父や曽祖父のコレクション及び愛用品など約600点がカテゴリー別に展示構成されている。この他、50点ほどの展示品もあり、その内容は多岐に渡りバラエティーに富んでいる。順路を気にすることなく、関心を持ったコーナーを気ままに見て回るのが今回の展示の楽しみ方だろう。

 展示品を紹介すると、満州電電製作の真空管ラジオ、米国イングラハム社の四つ丸ダルマ柱時計、切手のデザインかアートのようにも見えるマッチやタバコの外装、蓄音機やSPレコード、観音箪笥、大正末からのものと思われる千代紙、大正浪漫の雰囲気が醸し出された絵本や絵雑誌、明治期の日本地図、鉄道案内図、チラシや映画館のリーフレット、いすみ市指定文化財の賀古鶴所扁額や円蔵律寺二の舞面(館保管)等々。そして千葉順一さん御本人のコレクションであるバイクやめんこ、漫画本(月光仮面、鉄人28号)や雑誌(少年画報)、お菓子の包装紙など、特に団塊の世代は子どもの頃を思い出す懐かしいものばかり。少年時代からバイクが趣味で、50年以上、メンテナンスも自分で行い100台以上乗り継いできたという千葉さん。所有するバイクで最も古いのは和製ハーレーと呼ばれた陸王。現在の愛車はハーレー、BMW、リトルカブ。今回は、多数のコレクションの中から選んだ2台を展示。当時「コストよりスタイル重視。お坊さんやお医者さんが乗っていた」といわれるオールメタルで重量感漂う昭和39年式の150㏄のスクーター三菱シルバーピジョン、やはり昭和30年代につくられた50㏄の電動自転車の元祖三共コリー。エンジン走行だけでなくペダル走行も可能な、まさにエコな原動機付き自転車だ。
 「今まで蔵にしまわれているものについて関心がなかった。今回、初めて蔵の中のものを把握し、あらためて先祖の文化的な面を再確認することができた。最近では蔵の中にあった本のリストを作成中。レコードも聴いてリストを作りたい。そうして先祖の跡を辿っていきたい。蔵には他にも新聞やランプ、提灯、火鉢、刺し子、かんざしなど様々なものが眠っている。今後また、こうした企画展示の第二弾ができたら嬉しい」と微笑む千葉さんはレトロモダンな着物姿。「祖母が使っていた桐箪笥にあった久留米絣の着物をリメイクしました」とのこと。
 「細かい説明やうんちくは抜きにして、ものそのものを見て楽しんでもらえたら。見て心地良いものも揃っています。また、たとえば、絵本ですが、北原白秋が文章を書いていたり、竹久夢二が絵を描いていたりと、その時代の人たちが子どもたちのために作った格調の高い作品もありますので、ご覧になっていただきたいですね」と学芸員の伊藤さん。
 中高年には郷愁を感じる、若者や子どもには映画や本、画像でしか見ることのできなくなった暮らしの中に存在したものたちを見ることができる、またとない機会。深まりゆく秋の一日、懐かしいものとの再会のひとときを過ごされては。
 尚、同企画に合わせて、1960年代前半の風景画を中心にした『吉田收絵画展』を同時開催中。都会の風景を描いた水彩画とスケッチ作品約50点展示。

問合せ いすみ市郷土資料館
TEL 0470・86・3708
開館時間 9時~16時30分。入館無料。月曜休館。

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