朝日に向かって

文と絵 山口高弘

 元日の朝、薄明りで目を覚ましました。珍しく朝早く。そっとカーテンから覗くと、ちょうど初日の出が上がる頃のようです。
 外に出てみました。しん、とした空気の冷たさが頬を刺します。街は静まり返っていました。車屋に並んだ車たちが霜で白く固まっていて、動けなくなる魔法でもかけられたかのようです。夜の冷気が街全体を冷凍して、大晦日のまま時間が止まっていました。
 光が、東からまぶしく差してきました。白く凍った家の屋根が、アパートの壁が、銀色にキラキラ光りはじめました。朝が来る。新年の。氷の魔法が解けていく。金色の光はどんどん大きくなってきます。そうだ、朝日に向かって歩こう。
 東へ歩きました。足元は霜柱。雪のように白い田んぼの刈られた稲に、水色の影がかかっています。向こうで高架下に停まった赤信号の車が、おしりから湯気を出していました。金色の逆光で浮かび上がって、出発を待つ蒸気機関車のように気高く見える。「印象派の絵みたいだ」思わず呟きました。ここはフランスの駅ではなく、僕もモネではないけれど。
 朝日は坂の上から街全体を照らして、道に犬を連れた人が現れはじめました。路地裏のくたびれたベンツのライトが白く凍っていて、老紳士の眼鏡のようです。若いカップルとすれ違いました。ランニングをしている父子が、背中に朝日を受けながら僕を追い越していきます。遠ざかる綺麗な影と冬枯れの木々を写真に撮ろうと携帯を構えたら、電池がありませんでした。
 いつの間にか寺に着いていました。人影はなく、霞む光の中に静かに本堂があるだけです。服を探ると小銭がない。着の身着のまま初詣、か。手だけ合わせて踵を返しました。背中に、朝日の温もりを感じました。

☆山口高弘 1981年市原生まれ。
小学4年秋~1年半、千葉日報紙上で、毎週、父の随筆イラストを担当し、本紙では97年3月~イラストやエッセイを連載。

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