思いあれば夢かなう・・・ 日本一のチーズ職人、世界の舞台へ【大多喜町】

 毎月第1日曜のみ。大多喜町の小さなチーズ工房【千】sen の営業日だ。「ひとりで作る数には限界がある。量を増やして質が落ちたりしたら本末転倒でしょ。だから営業はこれからも月に1日だけ」。柴田千代さんが2014年12月、借り受けた古民家をリフォームして開設した同所には、営業日の早朝から客が並ぶ。宮城からの来訪者は「夜中に車で家を出て、朝6時に着きました」。その他、倉敷や神戸から柴田さんのチーズを求めるためだけに来たと話す人々もいて、11時の開店までにはのどかな山の中がすっかり活気づく。

日本オリジナルのチーズを追求

 2年に1度開催される「ALL JAPANナチュラルチーズコンテスト」において、柴田さんのチーズ「竹炭 濃厚熟成」がその頂点となる農林水産大臣賞を受賞したのは2017年11月(第11回)のことだ。日本一のチーズ職人を決める由緒あるこのコンテストで、女性初、関東初、そして工房を開設して最速の受賞ということで話題に。今年8月4日には「チーズを日本の文化にしたい」と語る柴田さんの姿がTBS『情熱大陸』で放送され、バイタリティと情熱あふれる生き様に「この人の作ったチーズが食べてみたい」等ネット上でも大きな反響を呼んだ。
 富里市出身。エールフランス航空勤務の父親に連れられ小学2年生の時、家族で1カ月フランスに滞在しチーズに魅了された。東京農業大学を卒業後、北海道のチーズ工房で月給3万円・休み3日の条件で2年半の住み込み修業、続いてフランスで1年修行を積み、帰国後は母校の講師やアルバイトを経て、かずさアカデミアパーク内の微生物研究所で収入を得ながら『千』をスタート。今春、設備投資が落ち着き同研究所を退所するまで「平日は朝と晩、休日は丸一日チーズ開発」と、二足のわらじを履いた。
 ところで、チーズは乳酸菌と酵母を加え牛乳が発酵することでできる。チーズに使う乳酸菌、酵母は数種あり、この組み合わせ(例えば、モッツァレラにはこれとこれ、といった定番のコンビ)により様々なカテゴリーのチーズが完成する。これに対し「本場の後追いではなく、日本独自のチーズを」と柴田さんは誰もしたことのない組み合わせを追求、独自の配合で新たなカテゴリーを生みだすことを旨とする。受賞した「竹炭 濃厚熟成」は、まさにこの流れで完成させたもの。「日本で分離された微生物もあるんですよ」と微生物研究所での経験も活かし、自らを「微生物の調合師」と呼んで柴田さんは続ける。「牛乳は季節や牛の状態によって違ってくるし、菌も酵母も生きているから365日微妙に変化します。その声に低姿勢で寄り添い相手の動きを読む気持ちで、同種のチーズでも毎日、配合を0・01グラム単位で変えていくんです」
 ちなみに、材料にこだわる柴田さんのチーズは原価率が5割という高さ。数で勝負できない分、付加価値を付け1つ5000円、5万円のチーズを考案したいとする。夢は世界一。昨年、世界コンクール「ワールド・チーズ・アワード」が開かれたノルウェーに生産者代表として派遣された柴田さんは、EU規制(食品の持ち込み)の関係で日本がコンクールに出られない状況に「日本のチーズを世界の舞台に立たせて!」と主催協会の女性理事長に訴えた。そして9月1日、急遽、10月開催の今年度のイタリア大会に日本からの出場が認められたという。同時に、柴田さんのイタリア行きも決定。 「思いあれば夢かなう。要は、自分自身が自分の夢をどれだけ信じ続けたかだと思います。今の私は10年20年前の私が描いていた夢。だから、これから次の課題として、10年後20年後の自分を描きます」

勝浦キュステで 材料費だけのチーズ教室

 超ハードな毎日を送る柴田さんだが、「普段出会えない方との出会い」「手作りの大切さを伝えること」を目的に、チーズ作りをレクチャーする活動も行っている。勝浦市芸術文化交流センター(キュステ)におけるカルチャースクールへの協力もその1つ。昨年に続き、今年も9月21日にはキュステ調理室において10名参加(申込先着順)の下、チーズの製作工程の説明に続いて実際にモッツァレラチーズを作り、できたてのチーズを用いた料理2品を全員で味わった。
 縁もゆかりもない勝浦で、材料費だけで講師を引き受けたことについて柴田さんは、「だって、キュステの吉野さんがプライベートでお店に来て、イベントにも足を運んでくれて、『是非、チーズ教室を』って一生懸命お願いするんだもの」と笑い飛ばす。「私たち職人は現場主義。まず、必ず客として行くのが基本だと思っていますからね。彼に頼まれればこれからもキュステでチーズ教室を続けるわよ」 人間味あふれるチーズ界の女王は、こうして確実に人の輪を広げていく。
問合せ:チーズ工房【千】sen
www.fromage-sen.com

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