「トレ・ジョリ!」 パリジャンに愛される洋画家

大森良三さん

 モディリアーニ、パスキン、藤田嗣治(つぐはる)など世界中の画家を惹きつけてきたパリ。大網白里市在住の洋画家大森良三さん(73)も毎年フランスに長期滞在し、人々が集うカフェや広場などを描く。恩師フォービズム(野獣派)の巨匠故里見勝蔵(かつぞう)氏に勧められ、ソシエテ・ナショナル・デ・ボザール(フランス王立美術協会展)に出品し、はじめてパリを訪れたのは1980年。「パリ病にかかった」と話す。
 パリはいつも大森さんを温かく迎える。「いろいろな人種が集まる雑多な風景の中に身を置くのが好き」。顔見知りのパン屋や肉屋の店員が「ボンジュール」と挨拶し、通りで絵を描いていると見知らぬ通行人たちが「トレ ジョリ(素敵だね)」と声をかけていく。じっと覗き込んでいたホームレスがどこからかピンクのバラを一輪買ってきて差し出したこともある。クレープ屋を描いていると店員が絵を譲ってほしいとお金を握りしめ寄ってきたり、寒い日にはカフェのオーナーが温かいコーヒーを持ってきてくれたり。1992年、フランス芸術家協会の開く国際公募展『ル・サロン』入選。2006年、画廊『アトリエ・ヴィスコンティ』で初めて個展を開くとパリ3区の芸術担当官に認められ、翌年にはパリ『3区市庁舎企画展』開催となる。パリの古き良き時代を彷彿させる大森さんの絵が芸術にうるさいパリジャンを魅了した。
 幾重にも塗られた重厚な絵具でパリの石畳や建築物を再現しながら、そこにたたずむ人物や風物のタッチは繊細。フォービズムの自由な筆致を引き継ぎつつも、大森さんの生まれながらに持つ温かい人柄とセンスの良さがにじみ出る。純粋で寡黙な印象を受けるが絵について伺うと「ペインティングナイフで何度も塗ったり、削ったりすると新しい色と色の出会いが生まれ発見がある。描いていると終わりがない」、「上手な絵よりいい絵が描きたい」と多弁になる。もがき苦しみながらキャンバスに向かうという。「描くことは生きることそのもの」。アトリエには描きかけの絵が何枚も並ぶ。
 岩手県久慈市出身。母親は和裁で家計を支え、一人で大森さんを育てた。子どもの頃から絵を描くのが好きで、母親は自由に落書きできる板の間を用意してくれた。どこに行くにもスケッチブックと一緒。「画家という職業がある」と教えてくれたのは中学校の教師だった。「久慈の朝のキーンと張りつめた冷たい空気はパリと同じ」と今も故郷を忘れない。毎年チャリティで東京八重洲にて岩手出身画家のグループ展『岩手震災復興絵画展―リアスの風』を開く。
 1988年に千葉三越で個展を開いたのを機に市原市で画廊を営む会社社長に声をかけられ、横浜から同市光風台に移り住むことに。11年後同郷の友人の厚意で大網白里市細草に広いアトリエを借りた。1年ほど通ったがアトリエにいる時間のほうが長いので同市柳橋に転居。近くの九十根(くじゅね)に『アトリエ クジュネ』を構える。2002年、市原市で開いていた絵画教室のメンバーが中心となり大森良三後援会『はまなすの会』を発足させ、ホームページも開設した。
 鴨川で個展を開いた2003年、画廊に通うため歩いた薄暗い歩行者用トンネルを「明るく楽しくしたい」と絵を描くことを提案。美大生、地域住民や子どもたち延べ900人が参加し、2年後に全長230メートルの『トンネル水族館』を完成させた。大森良三画集『Esprit de Paris』を出版したのは2012年。
 毎日、自宅からアトリエまで自転車で通う。家へ食事に戻るので1日3往復し、夕食後も午後11時まで絵を描き続ける。帰ると大森さんは「星の粒が多いよ」、「月の色がきれいだった」と道すがら感動したことを子どものように妻に報告するという。海鳴りが聞こえる自宅は田園風景が広がり、近くの南白亀(なばき)川も美しい。3月に大網白里市で開いた個展では「せっかく住んでいるのだから描いた」地元の風景画を展示すると好評だった。
「いつも応援してくれる人に恵まれてきた」と謙虚に話すけれど、ひたすら描き続ける姿に多くの人が惚れ込む。妻の京(きょう)さんも「大森が33歳で会社を辞めたときは将来への不安もあったが、画業に専念させてあげられる喜びが大きかった。帰国したときの生き生きとした顔が見たくてフランスに送り出していた」と心酔する。今年も5月末まで2人でフランスに滞在し、個展も開催予定だ。

問合せ 大森さん
TEL 0475・73・1138
E-mail kyoyanagi@hotmail.co.jp

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